『文學界』4月号、特集「図書館」に異議あり!、与那原恵『民営化』の危険な罠」 佐賀県武雄市図書館ほか現場ルポを拝読。
図書館について「民主主義社会に図書館は不可欠な存在」だと再認識すると共に、以下の2点が非常に印象に残っています。
- スウェーデンでは、地域によって住民が得る情報や図書の質に差があるのは不平等だという考えから、公共図書館は社会保障制度の一環として位置づけられている
- 公共図書館が需要を優先すると、利用者の水準によっては東京拘置所に類するような図書館になっていくのではないか
周南市立図書館の蔵書を検索してみたところ、周南市立図書館には置いていない雑誌のようですが、皆様にも是非読んで頂きたい内容でした。
武雄市図書館については、あれだけ話題になり注目もされ、また県外からの来場者数も増え、近隣の飲食店が潤ったという話もあり、地域として見たときに一概に「悪かった」とは言えないかもしれません。しかし、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営する武雄市図書館の「図書館」というものの在り方については疑問が残ります。
武雄市図書館では蔦屋書店の占有スペースを確保するために職員事務スペースを大幅に縮小、保管用閉架書庫を廃止。貴重な「郷土資料」であるはずの地域文化雑誌は破棄。かつては持ち込みでお弁当を食べられたカフェラウンジはスターバックスになり、持ち込みのお弁当は館外で食べるよう指示される。館内で飲食できるのはスターバックスの商品のみ。これが、CCCの言う「多機能なスマートフォンのような図書館」なのでしょうか。そもそも、図書館は「多機能なスマートフォン」のような施設であるべきでしょうか。同じ多機能を目指すのであれば、カフェは浦安市立中央図書館の「ひだまりカフェ」のように障がい者雇用を創出できる場にするほうが、市政として有意義であるように思えます。
民間に委託すれば経費が削減できる。そう考えた結果が、5億9488万円(前年度は1億4409万円)の図書館費とは困ったものではないでしょうか。
周南市の現在の計画では、指定管理料は推定2~4億円、家賃はタダ、非公表の店舗の収益はCCCの収入となるのに、工事費は市の負担。武雄市図書館の場合、店舗の改装費は当然CCCの負担、家賃は600万円となっています。もし、武雄市図書館を踏襲するのであれば、図書館職員は館長も含めて全員がCCCの契約社員の身分になります。書架案内やリファレンスに加えて、蔦屋書店の販売業務やTSUTAYAの業務をこなすことになります。図書館のカードがTポイントカードになった場合のデータ利用について、CCCは未だに明言を避けています。
そんな中で、果たして「図書館の自由に関する宣言」は守られるのでしょうか。市民の「知る権利」は守られるでしょうか、「利用者の秘密」は守られるでしょうか。大人のみならず、子どもたちの情報までもがビッグデータビジネスの餌食になりかねない危険性はないのでしょうか。
委託期間の5年が経ち、CCCが撤退することを決めた場合、図書館システムや建物の改装はどうなるのでしょうか。CCC用にシステムを入れ替えた後にCCCが撤退してしまえば、システム入れ替えまで蓄積された市としての図書館のノウハウやデータはすべて失われてしまうことも起こり得るのではないでしょうか。
もし、市民のビックデータと引き換えにTSUTAYAやスターバックスを誘致するのであれば、得をするのは市や市民ではないように思います。